「志貴さん起きていますか?」
「ああ起きているよ、琥珀さん。」
「うふふ、今日はちゃんと起きてくれたんですね。」

今朝は翡翠では無く琥珀さんが起こしに来てくれる。それだけで俺は・・・

「さあ、準備をしたら出かけようか。」

「はい・・・」


とても幸せを感じる・・・

 


共にある幸せ

 


七夜という一族が住んでいた。その一族は遠野の一族に滅ぼされてしまい今はいない。

だがここにただ一人生き残りが居た。

幼き頃より遠野家によって利用されてきた七夜志貴。彼は遠野槙久の気まぐれによって生き長らえ反転した遠野四季の身代わりとして生活をさせられていた。

「志貴さん・・・あの・・・」
「なんだい?琥珀さん。」

遠野家によって不幸な人生を歩むようになったのは志貴だけではない。ここにいる私も同じ・・・

「本当にお屋敷を離れるんですか?」

 

 


今、遠野志貴・・・いや七夜志貴はこの遠野の屋敷から出て行こうとしている。
私を救い・・・秋葉様を遠野家の呪縛から解き放ってくれた人・・・

私が始めて好きになった・・・人。

人形だった私に愛情というものを捧げてくれ昔渡したリボンのことを思い出してくれた大切な人。

私にとって気まぐれに過ぎないことだったのにそれを大切に覚えていてくれた事・・・

私はとてもうれしかった。

その人が今遠野の家を出て行こうとしている・・・

「琥珀さん・・・俺はやっぱ遠野にいてはいけないんだよ。それに・・・」

ああ・・・志貴様はあいかわらず自分の事を考えていてくれない。

あの時秋葉様と対峙していたときもそう・・・

彼は秋葉様でさえ救うといっていた・・・

多分秋葉様に迷惑が掛かるのを嫌い自分から出て行こうとしているのだろう。

本当に・・・ひどい人です・・・

秋葉様や翡翠ちゃんが悲しむのを知っているのにそれでも出て行こうとするなんて・・・

「ねえ琥珀さん。本当に俺についてきてくるの?」

「志貴さん・・・志貴さんは私についてくるなと?」
「いやそうじゃないけど・・・翡翠や秋葉だって悲しむぞ?」

そんなのはわかっている。わかりきったことだ。でもそれは・・・

「何を言っているのですか志貴さんは。そんな事言ったら志貴さんも同じなんですよ。」

最初からわかりきっていたこと・・・それでも私は・・・貴方と共にいたい・・・

「私は・・・志貴さんと一緒に居たいから貴方についていくと言ったのです。志貴さんは・・・私の事が・・・嫌いなのですか・・・?」

それは冗談ではない・・・

あの時彼は私の事を好きだといってくれた。

ただ演じることしか出来なかった人形だった私に生きると言う意味を教えてくれた・・・

この人を・・・失いたくない・・・

やっと手に入れた幸せというものがあるとしたのならきっとそれは彼・・・志貴さんなのだから・・・彼を私は失いたくはない・・・

「そんなの・・・決まっているよ・・・」

志貴さん・・・どうか・・・私を捨てないで・・・

「琥珀さんと一緒にいれて嬉しい・・・だから俺は迷惑をかけたくないから離れようとおもっていた・・・」

志貴さん・・・やはり自分の事を考えていないのですね・・・

「琥珀さんが好きなのは今でもそうだよ。だからこそ迷惑をかけたくない。だから今ならまだ考え直せるよ。」

「嫌です!!」

「えっ?」

「私は志貴さんと離れることが一番辛いです・・・それを・・・あなたは・・・」

気が付いたら・・・私は・・・泣いていた・・・

 

 

 

「でも・・・」

「志貴さん・・・どうか・・・どうか琥珀を・・・捨てないでください・・・私は貴方と離れることが辛いです・・・」

「琥珀さん・・・」

私の言いたかったことは全て言った・・・志貴さんは受け取ってくれるのだろうか?
もし・・・それでも駄目だったら私は・・・

「琥珀さん・・・きっと辛くなる・・・」

そんな事わかっている・・・でも私は貴方と共にいたい・・・
共に生き一緒に・・・ずっと一緒にいたい・・・

「翡翠だって秋葉だっていない・・・それなのに俺なんかについてきてくれていいの?」

「はい・・・私は志貴さんがいないと駄目になってしまいました・・・」

「そうか・・・」

「だから・・・」

「琥珀さん」

「はい・・・?」

「それでもついてくるのなら・・・俺と・・・」

志貴さん・・・?一体なにを?

なぜポケットに手を入れているのですか?

 

 


「俺と結婚して・・・くれないか?」

 

 


えっ・・・?

志貴さんは私に指輪を差し出して言葉を続ける・・・

「あの・・・?」

「俺だって琥珀さんと一緒にいたい・・・一緒に生活し共に笑いあいたい・・・」

それは・・・私も同じ・・・

「でも俺だけそんな事言っていても駄目だし琥珀さんが居なくなったら翡翠や秋葉だって悲しむ。俺はこの遠野の家からでて行かなければいけない。だからこのまま離れるしかないと思って・・・」

それは・・・

「でも・・・それでも・・・一緒に居たい・・・今までそれを押し殺してきたけど・・・」

志貴さん・・・

「琥珀さんの言葉を聞いて我慢ができなくなったんだ。だから・・・」

 

 


「俺は琥珀と結婚がしたい。」

 

 

えっ・・・・

「志貴さん・・・」

「駄目かな・・・?」

「いえ・・・」

嬉しい・・・

志貴さんと一緒だけじゃなく・・・夫婦になる・・・

「嫌なんかじゃ・・・ありません・・・とても・・嬉しいです・・・」

私はただ一緒にいたいと思っていただけなのに・・・

嬉しい・・・・・・

 

 

「琥珀さん・・・嬉しそうだね・・・」
「あはー、だって大好きな人と一緒に居られるんですよ?これが嬉しくないならなんていうんですか?」
「あはは・・・」

今俺の目の前に居る琥珀さんは指輪を付けて嬉しそうに笑っている。

それは心からの笑顔・・・昔の彼女ではできなかった笑顔・・・

「でもあの時は驚きました・・・」
「だって・・・それは・・・」
「いきなりプロポーズなんて・・・その・・・」
「いや・・その・・・」

たしかに急すぎたのかもしれない・・・でもそれは・・・

「でも・・・嬉しかったです・・・」

それは俺だって同じ・・・
琥珀さんの心からの本音が聞けて俺も決心したのだから・・・

「志貴さんと一緒にいる・・・それだけで・・・もう・・・」
「琥珀さん・・・」
「今こうして一緒にいるだけで私は・・・」
「それじゃ駄目だよ。」
「えっ?」

そう・・・俺は・・・

「琥珀さんと一緒に居るだけでも嬉しい・・・でもそれだけじゃやっぱ駄目だ。俺は琥珀さんをもっともっと幸せにしたいからこんな事で満足しちゃ困る・・・」

「志貴さん・・・」

「だからこんな事で満足してちゃ駄目だよ、琥珀。」

俺はこの人をまだ本当の意味で幸せにしていない・・・

「志貴さん・・・」

ギュ・・・

琥珀さんが抱きついてきてくれる・・・それは照れ隠しもあったのかもしれないけど・・・

「琥珀・・・泣かないでよ。」

胸を濡らす感覚でそれは解る。彼女が泣いていることが・・・

「志貴さんが・・・志貴さんがいけないのですよ・・・」

「ごめん・・・」

「でも・・・嬉しい・・・です・・・から・・・」

それは俺も同じ・・・

気がつけば俺も泣いていたから・・・

「琥珀・・・幸せになろう・・・」

「はい・・・志貴さん・・・」

俺はまだまだ彼女を満足させなくてはいけない・・・

今こうしているだけでも幸せを感じる。

でも今はそれが心地よい。

琥珀と一緒にいて抱き合っているのが心地よい・・・

「今だけは・・・」

今だけはこの感覚を味わっておきたい。

琥珀と共に居て感じる幸せを・・・

「ああ・・・本当に・・・」

なんて幸せなんだろう・・・

 

俺は琥珀と共にある幸せをその胸に感じ

彼女を絶対幸せにすると誓う・・・

「琥珀・・・大好きだ・・・」

「志貴さん・・・私も・・・私も愛しています・・・」

だから琥珀・・・

絶対に幸せにしてやる・・・

 

俺は琥珀を抱きながら・・・

彼女を絶対に幸せにすると誓った・・・

 

 

Fin