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 向日葵


 闇に秘められし向日葵ひまわり
 現世に具現せし死に魅入られた
 それは日向へと続く救いの手
 嘆きも 悲しみも 痛みもない
 塗り固められた人形の心は
 蒼き死の遣いに剥ぎ取られた
 与えられたのは人の心
 日向に見た 夢の続き





 4月になったばかりの昼、遠野志貴は離れの屋敷に来ていた。
 そろそろ桜が咲き出してもよい頃だ。日のぬくもりと、畳という日本人の心を求めて、志貴はこちらへとやってきていた。
 この春から大学生としての生活が始まる。彼は働きに出たかったのだが、彼の妹である秋葉がそれを許さなかったのだ。それで、とりあえず自宅から通える範囲で大学を決めたのだ。
 秋葉は志貴が離れへと来るのに、あまりいい顔をしない。あんな事があった後ではそれも仕方が無いかもしれないが。志貴もそれを判ってはいるのだが、それでもつい来てしまうのだ。
 志貴はこの離れで好きだった。べつに、幼少の頃ここで暮らしていたからという理由ではない。そもそも、彼に幼い頃の記憶などない。あったとして、それはおぼろげな物で、はっきりとはしないものだ。
 その彼がこの離れが好きな理由は別にある。
 それは、彼女との思い出。彼の最愛の人であり、向日葵のような笑顔が似合う女性。
 ここで貧血を起こして倒れたとき、彼は初めて彼女に膝枕をしてもらったのだ。あの時のことを思い出すと、今でも気恥ずかしくはある。だが、それも含めて彼にとっては大切な思い出だ。恐らくは、彼女にとっても。
 日の当たる縁側で仰向けに寝転がる。
 春の日差しは柔らかく、暖かい。春風は心地よく肌を撫で、彼を浅い眠りへと誘う。
 ついウトウトしていると、彼の顔に影がかかった。
「こんなところで寝ていると風邪を引きますよ、志貴さん」
 遠野の屋敷に帰省して以来、慣れ親しんだ人の声が聞こえた。
 その声に、うっすらと目を開く。
「・・・・・・琥珀さん」
 そこに居たのはやはりと言うべきか、彼の最愛の女性だった。いつもと同じ、和服に割烹着という装い。首の辺りで切りそろえられた髪に、白いリボンを付けている。
 彼女は縁側に腰掛け、覆いかぶさるように志貴の顔を見つめている。
「お昼寝もよろしいですけど、ちゃんと暖かくしないと調子を崩しちゃいますよ。志貴さんは体が弱いんですから」
「・・・・・・うん、そうだね。ありがとう、琥珀さん」
 いつの間にか、体には薄い布団がかけられていた。琥珀さんが気を利かしてかけてくれたのだろう。彼女にはいつも世話になる。
 起き上がろうと身を動かすと、顔に手が添えられた。
 それにドキッとしていると、頭を持ち上げられ、硬い縁側とは違う柔らかいものの上に乗せられた。
「こ・・・琥珀さん・・・・・・!?」
「どうかしましたか? 志貴さん」
 志貴の頭が乗せられたのは、琥珀の膝の上だった。好きな女の人に膝枕をしてもらうのは嬉しいのだが、それよりもまず気恥ずかしさがこみ上げてくる。
 起き上がろうと試みるのだが、琥珀の手がそれを許さない。頭を両手で挟まれ、がっちりと膝の上に固定されてしまっている。
 何をしても無駄だと悟り、志貴は大人しくなる。こうなったら開き直った方が断然お得だ。じっくりと琥珀の膝枕を堪能することにする。
 柔らかい春の日差しが、縁側にいる二人の男女を暖かく包む。
 しばしの間、二人はその暖かな光を楽しむ。
 志貴が大学に通い始めると、二人で居る時間はずいぶんと減る。その前も、琥珀は長い間遠い場所に勤めていたので、一緒にいられた時間はさほど多くは無かった。と言っても、週に一度は帰ってきてはいたのだが。
 琥珀が遠野の屋敷に帰ってきたのは10月の半ば。志貴の誕生日の前日だ。
 それからはずっと遠野の屋敷に今まで通り勤めている。だが、志貴は大学の受験で忙しかったし、琥珀は自分の仕事があるため、互いに時間が多くはとれなかったのだ。
 ようやくとれた二人だけの時間。
 それを、心行くまで満喫する。
「そういえば、初めて膝枕をしてもらったのもここだったね」
 ふと、思いついた事が自然と言葉に出た。
 別に何かを意図したわけではない。本当に、自然と口から登ったのだ。
 もしかしたら、琥珀さんとの会話をただ楽しみたかったのかもしれない。
「そうですねー。あの時は志貴さんが突然倒れたのでびっくりしちゃいました」
「はは、でもあれは役得だったかな。そのおかげで、琥珀さんに膝枕してもらえたんだし」
「あ、そんなこと言ってはいけませんよ。本当に心配したんですから」
「・・・・・・ごめん」
「判っていただけたらいいです」
 あの時は秋葉が来て大変だった。
 まあ、事情が事情だけに怒る事なんてできないんだけどね。
 でも、今は二人でこうしていても秋葉は何を言うこともない。ただ、むーっと何か言いたそうな顔でこちらを見つめてくる事はあるが。

 あの出来事が終わった後から、琥珀さんは笑顔を見せるようになった。
 上辺だけの、作り物の人形の笑顔ではない、本当の心からの笑顔。歳相応の少女らしい笑顔を。翡翠もそれに呼応するように、時々ではあるが笑顔を出すことも増えた。
 そんな当たり前の事が、志貴にはとても嬉しい。
 彼の妹も、以前より眉間にしわを寄せるような事も少なくなり―兄馬鹿かもしれないが―可愛らしい笑顔を見せることもしだした。
 軽く膝の上で身じろぎする。
「琥珀さん」
「はい、なんですか? 志貴さん」
 先ほどから膝枕をしてもらいながら考えていた事を言ってみる。
「明日さ、一緒にどこかへ出かけよう」
 琥珀さんは驚いたような顔をする。
 彼から彼女を誘う事はそれほど珍しいことではないが、ここまで唐突なのはやはり珍しい。
「あはー、デートのお誘いですか?」
「うん、駄目かな?」
 志貴はともかくとして、琥珀には屋敷の仕事がある。
 秋葉や翡翠がいいと言っても、琥珀はそれをないがしろにするようなことはしないだろう。
「ふふ、こんなこともあろうかと、秋葉さまにお休みの許可をいただいてるんです。本当は私から誘う予定だったんですけどねー」
「あ、そうなんだ。それは都合が良かったのか・・・な?」
「はい、勿論です。志貴さんから誘っていただけて、本当に嬉しいですよ」
「そっか・・・・・・それなら誘ったかいがあったな」
 どうやら危ないところだったらしい。こういうことは男から誘うものだと思っている志貴としては、最愛の人である琥珀から逆に誘われることだけは避けたい。
 春の柔らかな日差しが二人を暖かく包み込む。
 春風が二人を優しく撫で、二人のデートの約束を祝福するかのように木々がざわめく。
「―――そろそろ屋敷に戻ろうか」
「そうですね、お夕食の準備もしなくてはいけませんし」
 志貴が身を起こし、琥珀が布団を押入れへと片付けに行く。
 ふと、志貴は空を見上げた。雲一つない青天がそこには広がっている。
 腕に何かが巻きついてくる感触を覚え、視線を下げる。そこには琥珀が腕をからませていた。
「じゃあ帰ろうか」
「はい」
 ゆっくりと屋敷へ向けて歩き出す。
 さほど離れていない距離。その短い時間を精一杯楽しもうと二人はゆっくりと歩を進める。

「明日はどこに行こうかな」
「ふふ、志貴さんと一緒ならどこでもいいですよ」
「・・・・・・言ってて恥ずかしくない?」
「実は少しだけ」
「・・・・・・クッ」
「ふふ」





 向日葵はもう闇へ沈む事は無いだろう
 日向こそが生きるべき場所なのだから
 白い絆を持ちし死の遣い
 彼が共に居る限り・・・・・・
 





 あとがき

日向の夢の後の日常の一コマのつもりです。
志貴と琥珀さんだとほのぼのしか思いつきませんで。
前後にある詩もどきは趣味です。
妄想の産物と置き換えてもw
いえ、きっぱりと某ラノベの影響ですけどね。
個性的なあとがきを求めるマッチョでした。