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2年前
イギリス・ウェールズ:メルディアナ魔法学校
暗い室内を、窓から差し込む僅かな月光が蒼く染め上げる。
少年―8歳くらいだろうか―はその微かな月明かりを頼りに、書棚に整理された本の題名を読み上げていく。
しかし、目当ての本は見つからない。
それらしい本はあっても、少年の乏しい知識では今だ理解する事ができない。
薄暗い室内、書棚が幾つもある部屋の中を、少年は探し続ける。
不意に、何が気になったのか、少年がとある書棚の立ち止まる。
まるで、魅せられるように一冊の本を見つめている。
赤い包装に、金字で題名が書かれている。
『赤の断章』
それが、その本の名前だった。
書棚から取出し、少年はそれを窓辺へと持っていく。
それは、赤い騎士の物語だった。
正義の味方―――そう言う他ない人生を送った赤い騎士の記録。
それは少年の求めていた本ではなかったが、それでも少年にはとても美しい物に思えた。
読み終わり、最後に記されているはずの著作者の欄を開く。
そこで、少年は不思議に思った。
著作者の名前が記されていないのだ。
少年に感動を与えた本の著者の名前は記されていなかった。
代わりに記されていたのは一つの単語。
「
そう書かれていた。
本を閉じ、書棚に戻しにいこうと立ち上がる。
その時―――それは起こった。
膨大な魔力の胎動。
突如として現れたそれに、少年は腰が抜けるほど驚いた。
少年が知っている限り、これほどの魔力を持っているのは、この学校の校長先生しか知らないからだ。
随分と慌てたため、手から本が落ちてしまう。
本は床に落ちて開き、吹き荒れる魔力にさらされてページがめくれる。
そうしてそれは現れた。
突然吹き荒れた魔力は、やはり突然収まった。
代わりに現れたのは魔法陣。
少年が見たこともない大規模な魔法陣が本から外へとあふれ出していた。
やがてそれは完成し、魔力は再び吹き荒れる。
吹き荒れる魔力は魔法陣の中心へと収束し、その密度を高めていく。
これほどの魔力の暴走にもかかわらず、何故か人が集まる気配はいつまでもしなかった。
魔力の暴風の前に少年は目を開けられなくなり目蓋を閉じる。
しばらく暴風は続き、ようやく落ち着いた頃に少年は再び目を開けた。
そして、それを見た。
「これはまた、随分と可愛らしいマスターに召喚されたものだ」
―――赤い騎士。
背は190近いだろう。
白髪で、肌は浅黒い色をしている。
なにより、少年が赤い騎士だと思ったその理由。先ほど呼んだ本に出てきた、赤い外衣を纏っていた。
「マス・・・・・・ター―――・・・・・・?」
少年は呆然とそれを見ている。
何が起こっているのか、何を起こしてしまったのか。
少年の、小さく、僅かしかない知識と経験では理解できないのだろう。
呟くように、ただ言われたことを繰り返した。
「我が真名はエミヤ。世界との契約、そして古き血の盟約により参上した。これより、我が身は汝の剣となり敵を討ち滅ぼし、汝の鞘となり如何なる害悪からも守護する事を誓約しよう。ここに契約は完了した」
赤い騎士は少年の呟きに軽く、頷き誓いを立てる。
守護者として少年を守る誓いを。
「―――さて、私が何者であるか知りたそうだな、マスター。それに答える前に一つだけ聞いておこう。―――マスター、貴方の名前は?」
「あ―――ネギです。ネギ・スプリングフィールド・・・です」
「ふむ、ではネギと。では早速だがネギ。君は―――何から知りたい?」
それが赤い騎士と、小さな魔法使いの最初の邂逅だった。