少年は最初に見たものは逆さまの町の夜景と迫ってくる家の屋根
それがこの世界で始めて見るものだった

 

 

 

赤き剣製と蒼き剣聖


第二話   召喚

 


しかし、呆けていてもいられん
むりやり体を捻って足を下にしてから、さすがにこの高さでは体が傷つくので体を強化する。
そして

ドォン

どうやらとんだ手荒い召喚のしかたのようだ。
マスターの姿は無く粉々になった天井の破片と洋風のアンティーク物がある部屋。
しかし、この部屋に見覚えがあった。
だが、思い出せない。戦闘には影響はなさそうだが、自分が誰なのかわからない。
「さて、どうしたものかな。」
そんな言葉が口からこぼれた。
魔力は感じるがマスターの姿は無く、自分自身が誰なのかすらわからない。
少々自分にあきれているとドアの向こうから足音が聞こえる。
ラインを通すとどうやらマスターのようだ。
「扉、壊れてる!?」
ドアノブはカチャカチャとなるだけで扉はいっこうに開かない。
「――あぁもう、邪魔だこのおっ・・・・・・!!」

ドォン
どうやら無理やり蹴破ったらしい。
蹴破ったのはまだ年端もいかない赤い服を着たツインテールの少女だった。
「・・・・・・また、やっちゃった。」
そんなことをぼやいていたが私にはほとんど聞こえていなかった。


頭に浮かぶのは一人の少女

私に何かをさけんでいた

誰かもわからないただの少女

ただ、その姿が

ひどく懐かしく思えた


「――――――それで、あんたなに?」
その言葉で正気に戻った。
どうやらこの少女とは何かの接点があったのだろう。
しかしわからん、なぜ私がマスターであるこの少女を知っていたのか。
「開口一番にそれか。コレはまたとんだマスターに引き当てられたものだ。」
とりあえずそんな言葉を返しておいた。
どうやら気に障ったらしいが私にはあまり関係が無い。
「確認するけど、貴方はわたしのサーヴァントで間違いないの?」
「それはこちらが訊きたいな。君こそ私のマスターなのか。ここまで乱暴な召喚

は初めてでね。正直状況が掴めない。」
「わたしだって初めてよ。そういう質問は却下するわ!」
「・・・・・・そうか。だが私が召喚された時に、君は目の前にいなかった。これはどういう事なのか説明してくれ。」
「本気? 雛鳥じゃあるまいし、目を開けた時にしか主を決められない、なんて冗談やめてよね。」
話が一向に進まん。正直言って少々うんざりする。
「まあいいわ。わたしが聞いてるのはね、貴方が他の誰でもない、このわたしのサーヴァントかって事だけよ。それをはっきりさせない以上、他の質問に答える義務はないわ!」
どうやら本当にとんでもないマスターのようだ。もっとほかに言うことが有ると思うが・・・
「確かに、私は君が召喚したサーヴァントだ。だが、君は私のマスターなのかね?」
「あっ、当ったり前じゃない・・・・・・! 貴方がわたしに呼ばれたサーヴァントなら、貴方のマスターはわたし以外に誰がいるっていうのよ・・・・・・!」
「・・・・・・質問の仕方が悪かったな。私は君にマスターとしての証を示してもらいたい、と言っているのだがね。」
「ああ、それなら・・・」
彼女はそういいながら右手の令呪を掲げて見せた。
「ここよ。貴方のマスターである証ってコレでしょ!!」
そういいながら右手に浮かぶ赤き聖痕を自慢げに見せてくる。
少々頭痛を覚えてくる。
「・・・・・・はあ。まさか本気で言っているのか、お嬢さん?」
「ほ、本気かって、なんでよ!!」
むっとしたのだろう、少し頬を膨らましている。
確かに令呪はサーヴァントに対する絶対的な命令権の現れであり、サーヴァントを操るための最低条件である。
しかし、そんなこと今はどうでもいいことである。
「私が訊いているのはそういうことではない。君がマスターとして尊敬に値する人物なのか、それを訊いているのだ。」
「なによ? 令呪があるだけじゃ不満って言うの?」
「不満はない。確かに私は君が召喚したサーヴァントなのだからな。ただ、私の気分の問題だ。君とて、明らかに自分より下の者の命をきくのは本意ではあるまい?」
「・・・・・・誰が誰より下ですって?」
「君が私より、だ。先に言ったように不満はない。ただ私は今後、君の言い分には従わない。戦闘方針は私が決めるし、君はそれに従って行動する。これが最大の譲歩だ。それで構わないなお嬢さん?」
どうやら不満があるようだがこれは譲れない。見たところある程度の実力はあるようだが、これは聖杯戦争、「戦い」と「戦争」は違う。生きるか死ぬか、その二つしかない。コレはマスターのためにも譲ることはできない。
「いや、もちろん君の立場は尊重するよ。私の勝利は君のものだし、戦いで得た物は全て君に提供しよう。どうせ私には必要のないものからな。それなら文句はないだ・・・」
突然、強烈な寒気を感じた。まるで地雷を踏んだような、とてつもない悪寒。
見ると少女がまさに般若のごとき形相でこちらを睨んでいる。
とてつもなくいやな予感がする。
「あったまっきたぁーー!! いいわ、そんなに言うなら――!!」
いきなりそんなことを叫んだかと思うと・・・
      
「―――Anfangセット・・・・・・」
かすかに魔力が漏れる・・・
「な――まさか・・・・・・!?」
どうやら予感は的中したようだ・・・
魔力が渦をなす、どうやら本気でこの少女は三回しか使えない令呪を使うつもりらしい
「そのまさかよこの礼儀しらず!Vertrag・・・・・!令呪に告げる Ein neuer Nagel聖杯の規律に従い  Ein neues Gestzlこの者、我がサーヴァントに  Ein neues Verblechen戒めの法を重ね給え―――!」
口からは風のように流れる魔術の呪文。まさに完璧とも言えるそれは何の問題もなく令呪を発動させる。
 それと同時に膨大な量の魔力が彼女からラインを伝ってこちらに流れ込んでくる。
 最早、無茶苦茶である。
「ば・・・・・・!? 待て、正気かマスター!? そんなコトで令呪を使うヤツが・・・・・・!」
「うるさい!! いい、アンタはわたしのサーヴァント! なら、わたしの言い分には絶対服従ってもんでしょうー!?」
「なんだとー!?」
な、なんと言う理由で令呪を・・・
「か、考えなしか君は・・・・・・! こ、こんな大雑把な事に令呪を使うなど・・・・・・!」
しかしその言葉も令呪の発動には意味は無く、この体は戒めを受ける・・・
まったく、とんだ召喚だ・・・

 

 

そして今私たちがいるのはほとんど半壊状態の居間からマスターの部屋。
そして目の前には先ほどとんでもない理由で令呪を発動させたマスターが座っている。
「・・・・・・なるほど。君の性質は大体理解したぞ、マスター。」
それはもう嫌と言うほど
「念のため訊ねるが、君は令呪がどれほど重要か理解しているのか、マスター?」
とりあえずまずはそのことについて聞くことにした。
「そんな事知ってるわよ。サーヴァントを律する三回きりの命令権でしょ。それがなによ!!」
どうやら本気で言っているようだ・・・
「・・・・・・はあ。いいかね、令呪はサーヴァントを強制的に行動させるものだ。それは行動を止めるだけでなく、”行動を強化させる”という意味でもある。例えば、私は長距離を一瞬で移動する事はできないが、それでも君が令呪を使って”行け”と命じた場合、それが君と私の魔力で叶う範囲の事ならば空間を越えてでも実現する。令呪とはそういうものだ。」
「し、知ってるわよ、そんなコト。いいじゃない、まだ二つあるんだし、貴方に命じた規則は無駄じゃないんだし」
「・・・・・・ふう。確かに、これは私の誤算だった。本来、令呪は曖昧な命令には働きが弱くなるのだが。どうも、君の魔術師としての性能はケタが違ったらしい。」
「え?」
どうやら本人は理解していないらしい。
「前言を撤回しよう、マスター。君はたしかに私のマスターにふさわしい。子供と侮り、戦いから遠ざけようとしたのは私の過ちだった。無礼ともども謝ろう。」
たしかにとんでもない事をしでかしたが、それを物ともしない実力と自身がある。

それに、なぜかそれが、どこかなつかしく思えた・・・

「え―――ちょっと、止めてよ、たしかに色々言い合ったけど、そんなのケンカ両成敗っていうか・・・」
「いや、それでは私の気が済まない。君の実力に気づかなかったのは私の落ち度だ。だからせめて謝るくらいはさせてくれないと、こちらとしても立つ瀬が無い。」
「わかったわ。でも、そんなに気にしないで。令呪を使ったのは間違い無くわたしの落ち度なんだし。幾ら強制させているからといっても、そこまで下手になる必要はないわ。」
「別に強制されているから、というわけではないのだが・・・・・・。それにあのような曖昧な命令ではサーヴァントの行動を律する事はできはしない。せいぜい”マスターの意見を少しは考慮してやろう”といった程度だ。」
「・・・じゃあ、わたしのさっきの令呪は無意味って事・・・・・・?」
どうやら説明が不十分すぎたようだ。
「無意味ではない。誤算というのはその事だ。君の魔力がケタ違いだったためだろう。君の意見に異を唱えると、そうだな・・・・・・ランクが一つばかり落ちるようだ。君の意向に逆らうと体が重くなって動き辛いといったところか。」
「―――えっと・・・」
「その顔だと理解してくれたようだな。つまり、私が君をマスターとして認めるのは令呪で強制されたからではなく、自身がその意思で君をマスターとして認めたということだ。魔力の提供量も十分だ。さきほどの令呪といい―――マスターとしてこれ以上の存在はいまい。」
「っ―――ふ、ふん。今さら褒めたって何もでないけど。」
多少照れているところもあるだろう。少し顔が赤い。
しかしさっきの言葉に偽りはない。魔力量、そして理解力もある。それになりより肝が据わっている。時に戦闘では実力よりも度胸がいる時がある。彼女ならそれは合格ラインにとどいている
「・・・・・・で? 貴方、何のサーヴァント?」
どうやら本題に入ったようだ。
「見て判らないか。ああ、それは結構。」
たしかにこの姿ではなんの英霊ですらわからない。
「・・・・・・分かったわ、これはマスターとしての質問よ。ね。貴方、セイバーじゃないの?」
「残念ながら、剣は持っていない。」
その一言で彼女はかなりショックをうけたようだ。
「・・・・・・ドジったわ。あれだけ宝石を使っておいてセイバーじゃないなんて、目も当てられない。」
さすがにその言葉にはムッっときた。
「・・・・・・む。悪かったな、セイバーでなくて。」
「え? あ、うん、そりゃあ痛恨のミスだから残念だけど、悪いのは私なんだから―――」
「ああ、どうせアーチャーでは派手さに欠けるだろうよ。いいだろう、後で今の暴言を悔やませてやる。その時になって謝っても聞かないし許さないからな。」
「・・・・・・はい?」
どうやら私がそんな事を言うのが相当意外なのだろう。かなり戸惑っている。
確かに自分でも子供っぽいことを言っていると思う。
「なに、癇に障った、アーチャー?」
「障った。見ていろ、必ず自分が幸運だったと思い知らせてやる。」
あぁ、その一言、絶対に後悔させて見せよう。
「そうね。それじゃあ必ずわたしを後悔させてアーチャー。そうなったら素直に謝らせて貰うから」
「ああ、忘れるなよマスター。己が召還した者がどれほどの者か、知って感謝するがいい。もっとも、先ほど言った通りそう簡単には許しはしないがな・・・」
しかしわかったことが有る、どうやら私は幸運なマスターに引き当てられたようだ。
この一通りの話で私は彼女が気に入った。
「わかったわよ。それで貴方、どこの英霊なの?」
「・・・・・・・」
しかしこの質問には答えられない。いや、答えることができない。
「アーチャー? マスターであるわたしが、サーヴァントである貴方に訊いているんだけど?」
しかしそんなことを言ってもどうしようも無い。
「私がどのようなモノだったかは答えられない。何故かというと―――」
「あのね。つまらない理由だったら怒るわよ」
「――――――それは」
しかし、それを言っていいのかわからない。下手をすれば彼女は怒り狂うだろう。
だが、どうしようもないか・・・
「―――私にも分からないからだ。」

「―――――はああああああ!? なによそれ、アンタわたしの事バカにしてるわけ!?」
どうも今日は予感が当たる。いや、今日だけではないのかもしれない。それすら私には分からない。
「・・・・・・マスターを侮辱するつもりはない。ただ、これは君の不完全な召喚のツケだぞ。どうも記憶に混乱が見られる。自分が何者であるかは判るのだが、名前や素性がどうも曖昧だ。・・・・・・まあさして重要な欠落ではないから気にする事はないのだが。」
そんな言葉では引き下がる彼女ではなかった・・・
「気にすることは無い―――って、気にするわよそんなの!アンタがどんな英霊か知らなきゃ、どのくらい強いのか判らないじゃない!」
「なんだ、そんな事は問題ではなかろう。些末な問題だよ、それは。」
そういって微笑みかける。どうやらまだ納得していないようだ。
「些末ってアンタね、相棒の強さが判らないんじゃ作戦の立てようがないでしょ!?そんなんで戦っていけるワケないじゃない!」
「何を言う。私は君が呼び出したサーヴァントだ。それが最強で無い筈は無く、私たちが組む以上相手が誰だろうが敗北は無い。」
そう言い切った。その言葉に自信がある。決して敗北はない。必ず彼女に勝利を渡すと、なぜか核心があった。
「な―――」
絶句。そう言って良いだろう。完全に呆れている。
「分かった、しばらく貴方の正体に関しては不問にしましょう。―――それじゃアーチャー、最初の仕事だけど・・・」
「む、いきなりか戦闘か?随分と好戦的なのだな、君は。」
いきなり戦闘をするとは思わなかった。
しかし、どうやらただの思い違いだとすぐに気付いた。
「違うわよ。はい、コレとコレ」
「―――む?」
そう言って渡されたのはチリトリと箒。
「ここの掃除、お願い。アンタが散らかしたんだから、責任もってキレイにしといてね。」
「・・・・・・待て、君はサーヴァントをなんだと―――」
「使い魔でしょ?ちょっと生意気で扱いに困るけど・・・」
唖然とする。過去にサーヴァンドに掃除をさせたマスターはいたのだろうか・・・
「・・・・・・了解した。地獄に落ちろ、マスター。」
早々に諦めて掃除をしに居間へ行く。抵抗しても彼女による令呪の縛りでランクが一つ下がるよりは掃除をしたほうが良い。
どうやらマシだ。
しかし、どうも頭を離れないことがあった。それはセイバーという単語。サーヴァンドの中でもっとも最良といわれる者。
なぜかは分からない。しかし、はじめその単語を聞いた時、なぜか黄金の丘が目の前に広がった。分からない。だが、なにか大切なことを、そう、なにか体の一部を忘れたような感覚がある。

 

 


何か分からない。分かるのは大切なことだと言うことだけ。
それが分かるのは
しばし後。


つづく

 

 

 

 


あとがき

こんにちは、ark623です。
すいません。学校による妨害のため筆記時間が確保できませんでした。
もう少しは早くするので勘弁してください。
今回は、アーチャー召喚でしたが、少しキャラが違うようなきがして悔やまれます。
でもがんばるんで応援してくれると大変うれしいです。
それでは、またお会いしたいです。